科研費(文科省・学振)獲得実績 - 山本 雅博
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帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
2001年 - 2002年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
当初の目的に掲げた信号増幅システムに関しては、昨年に発表したように、そのプロトタイプを作ることが出来た。今年度は、この研究の過程で見いだした興味深い界面現象である「帯電した液液界面の電気化学的不安定性」に重点を置いて研究した。
水と油などの二相間の界面が熱力学的に安定に存在するためには、界面張力の界面電位差についての二次微分は負でなければならない。
これは、界面の持つ電気容量が正でなければならないことを意味する。通常の液液界面ではこの条件は満たされているが、イオン性界面活性剤など、界面に電位依存的に吸着するイオンが系に存在すると、この条件が満たされなくなることがある。これは、吸着と分配がともに電位依存的に起きることによる。これが界面の電気化学的不安定性である。この不安定性は、1.界面電位差のある範囲で窓上に存在する、2.界面張力が正であるにもかかわらず不安定になる、3.不安定領域は常に、そのイオンが持つ標準イオン移動電位付近に存在する、などの特徴を有する。末端に親水基としてSO_3^-あるいはSO_4^-を持つ一連の脂肪族アニオン性界面活性剤および、アルキルアンモニウムイオンやイミダゾリウムイオンなどのカチオン性界面活性剤について、理論的予測を裏付ける実験結果を得た。界面のビデオ画像から、電流の乱れは界面付近の溶液の攪拌と対応しており、また、エマルション生成が認められた。このことは、不安定電位領域では、マランゴニ効果による機械的運動とエマルション生成による界面の消滅が起きている。
界面の電気化学的不安定性は、界面は自立的な相とは見なし得ないものの、2成分液体の相分離などの相転移と本質的に同一な相転移の一種であると考えることができ、電気化学的安定-不安定の転移は、電気化学的界面転移、界面消滅転移と呼ぶこともできよう。 -
帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
2001年 - 2002年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
当初の目的に掲げた信号増幅システムに関しては、昨年に発表したように、そのプロトタイプを作ることが出来た。今年度は、この研究の過程で見いだした興味深い界面現象である「帯電した液液界面の電気化学的不安定性」に重点を置いて研究した。
水と油などの二相間の界面が熱力学的に安定に存在するためには、界面張力の界面電位差についての二次微分は負でなければならない。
これは、界面の持つ電気容量が正でなければならないことを意味する。通常の液液界面ではこの条件は満たされているが、イオン性界面活性剤など、界面に電位依存的に吸着するイオンが系に存在すると、この条件が満たされなくなることがある。これは、吸着と分配がともに電位依存的に起きることによる。これが界面の電気化学的不安定性である。この不安定性は、1.界面電位差のある範囲で窓上に存在する、2.界面張力が正であるにもかかわらず不安定になる、3.不安定領域は常に、そのイオンが持つ標準イオン移動電位付近に存在する、などの特徴を有する。末端に親水基としてSO_3^-あるいはSO_4^-を持つ一連の脂肪族アニオン性界面活性剤および、アルキルアンモニウムイオンやイミダゾリウムイオンなどのカチオン性界面活性剤について、理論的予測を裏付ける実験結果を得た。界面のビデオ画像から、電流の乱れは界面付近の溶液の攪拌と対応しており、また、エマルション生成が認められた。このことは、不安定電位領域では、マランゴニ効果による機械的運動とエマルション生成による界面の消滅が起きている。
界面の電気化学的不安定性は、界面は自立的な相とは見なし得ないものの、2成分液体の相分離などの相転移と本質的に同一な相転移の一種であると考えることができ、電気化学的安定-不安定の転移は、電気化学的界面転移、界面消滅転移と呼ぶこともできよう。 -
帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
1999年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1)帯電した液液界面の電気化学的不安定性
エマルション粒子の油水界面へのなだれ的融合を調べるための実験系としてAerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍に形成されるエマルションの生成メカニズムと、融合条件を検討してきた。その過程で、エマルションが自発的に形成されるメカニズムが未解明であることがわかったので、この点を詳しく検討した。その結果、帯電した液液界面の安定性に関する一般的基準を明確にすることが出来た。これは、本研究の目的のみならず、界面化学一般に重要な新概念であり、液膜の非線形振動現象など、本特定研究の他の研究分野にも新しい考え方を提案するものである。
【電気化学的不安定性の理論】液液二相界面におけるイオン性界面活性剤など界面活性なイオンの吸着は、二相間の界面電位差Eに強く依存する。吸着の電位依存性に対する熱力学的考察により、そのイオンの標準イオン移動電位を中心としたある特定の電位領域で最大となり、その外側では吸着は起こらないことを示すことができる。それに対応して、吸着が生じる電位領域では界面張力γが低下する。一方、γは界面の両側にできる電気二重層のために界面活性剤の吸着がない場合でも、電気毛管極大を頂点としてEに応じて放物線状(-coshx状)に変化する。これらの二つの寄与が加算的であると考えて界面活性なイオンが存在する場合のγ vs.E曲線(電気毛管曲線)を求めた。
電気毛管曲線は界面活性イオンの標準イオン移動電位付近で凹状になり、γのEについての2次微分はくぼみの底付近を中心として正になる。これは、界面の微分容量が負になることを意味する。電気容量が負になると系は本質的に不安定になりγが大きく正でも、自発的にエマルションが生じる。この不安定性は、γが有意に正の値を持つときでも生じるので、電気乳化とは違った、これまでには知られていない新しい不安定性である。その基準は、(d^2γ/dE^2)_<γ,ρ,μ>>0実際には、不安定になるか否か、つまり電気毛管曲線の曲率が正になるか否かは、界面活性イオンの標準イオン移動電位とその吸着がないときの電気毛管極大電位(ゼロ電荷電位)との相対的な位置にも依存する。
この不安定電位窓の存在を、一連のアルキルスルフォン酸のイオン移動ボルタンメトリーなどにより証明した。不安定性の例を下図に示す。ある特定の電位範囲でのみ界面が不安定になり、再現性良くカオス的な挙動を示す。AOT存在下での自発エマルション生成は、この理論で説明できる。また、液膜の振動現象の根拠を与える。
2)ガラスキャピラリー電極を用いた微視的なだれ型融合の検出
これまでに数百μm程度の巨視的なエマルションのなだれ型融合を報告してきた^<1.2)>。これにくわえて、より小さなエマルションの液液界面への融合過程が存在することを、先端径が10〜100μmガラスキャピラリーの先端に作った液液界面を用いて実験的に示した。この場合も、融合はなだれ型で生じているようである。 -
帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
1999年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1)帯電した液液界面の電気化学的不安定性
エマルション粒子の油水界面へのなだれ的融合を調べるための実験系としてAerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍に形成されるエマルションの生成メカニズムと、融合条件を検討してきた。その過程で、エマルションが自発的に形成されるメカニズムが未解明であることがわかったので、この点を詳しく検討した。その結果、帯電した液液界面の安定性に関する一般的基準を明確にすることが出来た。これは、本研究の目的のみならず、界面化学一般に重要な新概念であり、液膜の非線形振動現象など、本特定研究の他の研究分野にも新しい考え方を提案するものである。
【電気化学的不安定性の理論】液液二相界面におけるイオン性界面活性剤など界面活性なイオンの吸着は、二相間の界面電位差Eに強く依存する。吸着の電位依存性に対する熱力学的考察により、そのイオンの標準イオン移動電位を中心としたある特定の電位領域で最大となり、その外側では吸着は起こらないことを示すことができる。それに対応して、吸着が生じる電位領域では界面張力γが低下する。一方、γは界面の両側にできる電気二重層のために界面活性剤の吸着がない場合でも、電気毛管極大を頂点としてEに応じて放物線状(-coshx状)に変化する。これらの二つの寄与が加算的であると考えて界面活性なイオンが存在する場合のγ vs.E曲線(電気毛管曲線)を求めた。
電気毛管曲線は界面活性イオンの標準イオン移動電位付近で凹状になり、γのEについての2次微分はくぼみの底付近を中心として正になる。これは、界面の微分容量が負になることを意味する。電気容量が負になると系は本質的に不安定になりγが大きく正でも、自発的にエマルションが生じる。この不安定性は、γが有意に正の値を持つときでも生じるので、電気乳化とは違った、これまでには知られていない新しい不安定性である。その基準は、(d^2γ/dE^2)_<γ,ρ,μ>>0実際には、不安定になるか否か、つまり電気毛管曲線の曲率が正になるか否かは、界面活性イオンの標準イオン移動電位とその吸着がないときの電気毛管極大電位(ゼロ電荷電位)との相対的な位置にも依存する。
この不安定電位窓の存在を、一連のアルキルスルフォン酸のイオン移動ボルタンメトリーなどにより証明した。不安定性の例を下図に示す。ある特定の電位範囲でのみ界面が不安定になり、再現性良くカオス的な挙動を示す。AOT存在下での自発エマルション生成は、この理論で説明できる。また、液膜の振動現象の根拠を与える。
2)ガラスキャピラリー電極を用いた微視的なだれ型融合の検出
これまでに数百μm程度の巨視的なエマルションのなだれ型融合を報告してきた^<1.2)>。これにくわえて、より小さなエマルションの液液界面への融合過程が存在することを、先端径が10〜100μmガラスキャピラリーの先端に作った液液界面を用いて実験的に示した。この場合も、融合はなだれ型で生じているようである。 -
電位誘起アバランシュ増幅を伴う膜の構築と高感度センシング系の開発
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽的研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、液液界面/エマルション・ベシクルをベースとして、分子補足→電位変化→ベシクルのなだれ的融合・透過→酵素放出→光検出と一つの刺激が堰を切ったようになだれ的に次段の過程を引き起こすアバランシュ型信号増幅のシステムの構築を目指し、そのための基礎研究として以下の実験を行なった。
1.帯電粒子と帯電界面との相互作用の研究
帯電した粒子と分極性油水界面との相互作用をより詳しく調べるために、蛍光ラベルされ負に帯電したラテックス粒子と分極性DCE/W界面との相互作用を全反射蛍光法で調べた。DCE相側が負に帯電しているときは粒子の界面への融合は無視できるほどであるが、DCE相側が正になる電位では、蛍光強度が増加することが認められた。電位ステップ直後の速い蛍光変化は粒子の界面への付着、その後の遅い変化は粒子のDCE相への溶解に対応すると考えられる。
2.アバランシュ融合過程のモニターリング
Aerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍にいくつかの方法でエマルションを形成し、融合条件を検討した。AOTをジクロルエタン(DCE)に溶解し、LiCl水溶液を接触させると、界面のDCE相側が徐々に白濁してくる。これは、W/O型のエマルションが形成されることによる。この状態で、DCE相から水相への正電荷の移動に対応するスパイク電流が観察された。スパイクの面積から見積もった電気量は、個々のエマルション粒子の移動によりものと比べ1000倍程度と大きく、アバランシュ型の移動であることがわかる。エマルション粒子の界面への融合過程を、EB-CCDカメラを装着した顕微鏡および実体顕微鏡で観察すると、電流スパイクに対応して、直径200μm程度の大きな液滴がDCE相からW相に移動することがわかった。 -
電極表面における吸着有機単分子層の相転移挙動と電極反応
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、金属原子が規則正しく配列した電極表面におけるチオール誘導体分子のミクロな構造が、それらの分子の酸化還元特性という巨視的なふるまいにどのように反映されるかを、実験と理論の両面から解明することを目的とし、以下のような成果を得た。
1.吸着した分子と脱着した分子の表面濃度との間に最近接相互作用のみを考慮した格子統計モデルに基づく等温式が成り立つと考え、数値的にボルタモグラムを計算した。チオール自己組織化単分子膜(SAM)のサイクリックボルタモグラム(CV)で観察されるチオール分子の還元的脱離に伴うピークの特徴がよく再現され、ピーク電位のシフトには、脱着した分子の吸着自由エネルギーのアルキル鎖長依存性の寄与が比較的大きいこと、ピーク面積と吸着量の差異は脱着に伴う充電電流で説明できることが示唆された。
2.チオールの末端官能基の解離状態を調べるために末端にカルボキシル基を有するチオールから形成させたSAMのpK_aをキャパシタンス測定により見積もった。HS(CH_2)_2COOHでは、見積もられたpK_aは約8.5で、バルク溶液中の値に比べてアルカリ側に4pHユニット大きい値であった。また、pK_aの値は、メチレン鎖長が長くなるほど大きくなった。
3.溶液中に溶存しているチオールと吸着した分子との交換反応が、2種類のドメインを形成しながら進行することが、還元的脱離CVと走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた測定から明らかとなった。
4.より完全に相分離する二成分SAMの形成させ、電位制御により一方のチオールのみを選択的に置換した。選択的脱離後および選択的置換後の膜構造をSTMで観察した結果、相分離した二成分SAMから一成分を選択的に脱離した後では表面に残っている分子が倒れ込んでいること、置換の前後でドメインサイズは、ほぼ保たれていることが分かった。 -
電位誘起アバランシュ増幅を伴う膜の構築と高感度センシング系の開発
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽的研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、液液界面/エマルション・ベシクルをベースとして、分子補足→電位変化→ベシクルのなだれ的融合・透過→酵素放出→光検出と一つの刺激が堰を切ったようになだれ的に次段の過程を引き起こすアバランシュ型信号増幅のシステムの構築を目指し、そのための基礎研究として以下の実験を行なった。
1.帯電粒子と帯電界面との相互作用の研究
帯電した粒子と分極性油水界面との相互作用をより詳しく調べるために、蛍光ラベルされ負に帯電したラテックス粒子と分極性DCE/W界面との相互作用を全反射蛍光法で調べた。DCE相側が負に帯電しているときは粒子の界面への融合は無視できるほどであるが、DCE相側が正になる電位では、蛍光強度が増加することが認められた。電位ステップ直後の速い蛍光変化は粒子の界面への付着、その後の遅い変化は粒子のDCE相への溶解に対応すると考えられる。
2.アバランシュ融合過程のモニターリング
Aerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍にいくつかの方法でエマルションを形成し、融合条件を検討した。AOTをジクロルエタン(DCE)に溶解し、LiCl水溶液を接触させると、界面のDCE相側が徐々に白濁してくる。これは、W/O型のエマルションが形成されることによる。この状態で、DCE相から水相への正電荷の移動に対応するスパイク電流が観察された。スパイクの面積から見積もった電気量は、個々のエマルション粒子の移動によりものと比べ1000倍程度と大きく、アバランシュ型の移動であることがわかる。エマルション粒子の界面への融合過程を、EB-CCDカメラを装着した顕微鏡および実体顕微鏡で観察すると、電流スパイクに対応して、直径200μm程度の大きな液滴がDCE相からW相に移動することがわかった。 -
電極表面における吸着有機単分子層の相転移挙動と電極反応
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、金属原子が規則正しく配列した電極表面におけるチオール誘導体分子のミクロな構造が、それらの分子の酸化還元特性という巨視的なふるまいにどのように反映されるかを、実験と理論の両面から解明することを目的とし、以下のような成果を得た。
1.吸着した分子と脱着した分子の表面濃度との間に最近接相互作用のみを考慮した格子統計モデルに基づく等温式が成り立つと考え、数値的にボルタモグラムを計算した。チオール自己組織化単分子膜(SAM)のサイクリックボルタモグラム(CV)で観察されるチオール分子の還元的脱離に伴うピークの特徴がよく再現され、ピーク電位のシフトには、脱着した分子の吸着自由エネルギーのアルキル鎖長依存性の寄与が比較的大きいこと、ピーク面積と吸着量の差異は脱着に伴う充電電流で説明できることが示唆された。
2.チオールの末端官能基の解離状態を調べるために末端にカルボキシル基を有するチオールから形成させたSAMのpK_aをキャパシタンス測定により見積もった。HS(CH_2)_2COOHでは、見積もられたpK_aは約8.5で、バルク溶液中の値に比べてアルカリ側に4pHユニット大きい値であった。また、pK_aの値は、メチレン鎖長が長くなるほど大きくなった。
3.溶液中に溶存しているチオールと吸着した分子との交換反応が、2種類のドメインを形成しながら進行することが、還元的脱離CVと走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた測定から明らかとなった。
4.より完全に相分離する二成分SAMの形成させ、電位制御により一方のチオールのみを選択的に置換した。選択的脱離後および選択的置換後の膜構造をSTMで観察した結果、相分離した二成分SAMから一成分を選択的に脱離した後では表面に残っている分子が倒れ込んでいること、置換の前後でドメインサイズは、ほぼ保たれていることが分かった。 -
低放射化マルテンサイト鋼における高濃度ヘリウムによる自己修復機能の発現
1998年 - 2001年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
木村 晃彦, 森下 和功, 長谷川 晃, 高橋 平七郎, 山本 雅博
本研究結果を以下に要約する。
1.ヘリウム効果:1)マルテンサイト鋼は、150℃において600atppmHeのイオン注入では脆化を生じない。注入後の焼鈍(600℃)では、ヘリウムバブルが成長するが、ヘリウムによる粒界脆化は発現しない。2)ヘリウムの存在は、照射硬化の回復を抑制する。
2.ヘリウム脆化抑制機構:マルテンサイト組織がヘリウムをマトリックス内の高密度転位、合金元素および析出物粒子界面に分散捕獲することにより、粒界への偏析を抑制するため。
3.照射硬化回復の抑制機構:ヘリウムが空孔型欠陥集合体の安定性を高め、分解による単空孔の生成を遅らせることにより、転位ループとの合体消滅を抑制するため。
これらの結果を受けて、マルテンサイト鋼の自己修復機能を提案した。
高濃度ヘリウムの存在は、空孔型欠陥集合体を熱的に安定化するため、スエリングの照射温度依存性におけるピーク温度を高温側にシフトさせると予測される。これに伴い、照射硬化および照射軟化の遷移温度も高温側にシフトすると考えられる。照射軟化はマルテンサイト組織の回復によるものであることから、ヘリウムの存在はマルテンサイト組織の回復を抑制することが期待された。本研究では、ヘリウムの昇温脱離挙動を調べた結果、1)転位はヘリウムを有効に捕獲する。2)Cr原子もヘリウムを捕獲する、ことを実証した。これは、マルテンサイト組織中に存在する高密度転位や照射によって形成される格子間型転位ループがヘリウムの有効な捕獲サイトとなり、消滅相手となる空孔型欠陥および自らの熱的安定性を向上させることにより、マルテンサイト組織の回復を抑制する機構を発現するに至っていると解釈することが可能である。
結論:マルテンサイト組織によるヘリウム捕獲と照射による転位ループの形成は、スエリングや照射硬化の発現温度を高温側にシフトさせ、照射脆化の発現温度域を高温度側に拡張させるというネガティブな効果を持つ一方で、自己機能により照射軟化を抑制し、高温強度を高めクリープ強度を高める可能性を持っことが示された。 -
低放射化マルテンサイト鋼における高濃度ヘリウムによる自己修復機能の発現
1998年 - 2001年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
木村 晃彦, 森下 和功, 長谷川 晃, 高橋 平七郎, 山本 雅博
本研究結果を以下に要約する。
1.ヘリウム効果:1)マルテンサイト鋼は、150℃において600atppmHeのイオン注入では脆化を生じない。注入後の焼鈍(600℃)では、ヘリウムバブルが成長するが、ヘリウムによる粒界脆化は発現しない。2)ヘリウムの存在は、照射硬化の回復を抑制する。
2.ヘリウム脆化抑制機構:マルテンサイト組織がヘリウムをマトリックス内の高密度転位、合金元素および析出物粒子界面に分散捕獲することにより、粒界への偏析を抑制するため。
3.照射硬化回復の抑制機構:ヘリウムが空孔型欠陥集合体の安定性を高め、分解による単空孔の生成を遅らせることにより、転位ループとの合体消滅を抑制するため。
これらの結果を受けて、マルテンサイト鋼の自己修復機能を提案した。
高濃度ヘリウムの存在は、空孔型欠陥集合体を熱的に安定化するため、スエリングの照射温度依存性におけるピーク温度を高温側にシフトさせると予測される。これに伴い、照射硬化および照射軟化の遷移温度も高温側にシフトすると考えられる。照射軟化はマルテンサイト組織の回復によるものであることから、ヘリウムの存在はマルテンサイト組織の回復を抑制することが期待された。本研究では、ヘリウムの昇温脱離挙動を調べた結果、1)転位はヘリウムを有効に捕獲する。2)Cr原子もヘリウムを捕獲する、ことを実証した。これは、マルテンサイト組織中に存在する高密度転位や照射によって形成される格子間型転位ループがヘリウムの有効な捕獲サイトとなり、消滅相手となる空孔型欠陥および自らの熱的安定性を向上させることにより、マルテンサイト組織の回復を抑制する機構を発現するに至っていると解釈することが可能である。
結論:マルテンサイト組織によるヘリウム捕獲と照射による転位ループの形成は、スエリングや照射硬化の発現温度を高温側にシフトさせ、照射脆化の発現温度域を高温度側に拡張させるというネガティブな効果を持つ一方で、自己機能により照射軟化を抑制し、高温強度を高めクリープ強度を高める可能性を持っことが示された。 -
液液二相系における界面特異的反応過程の研究
1998年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1.イオンの界面透過過程の研究交流ボルタンメトリー法と交流変調電位規制界面蛍光法を用いて,キサンテン色素イオンの遅い界面透過はイオンの界面への吸着によるものであることを,明らかにした.通常では界面活性があるとは考えられていないイオンでも,イオン移動のダイナミックな特性にはその弱い界面活性が重要であることを示した.2.イオンの界面吸着に関する研究界面活性イオンの吸着は,その標準イオン移動電位近傍で常に最大となることを明らかにした.この結論は,イオンの性質や溶媒の性質,共存物質などによらない一般的なものであるので,液液二相系の性質を考えるときの重要な指針となる.3.界面の安定性に関する研究界面不安定性の新しい規準として,界面張力-電位曲線の曲率が正,という新しい関係を見いだした.また,このことを実験的に証明した.この新しい不安定性の概念は,自発的乳化を説明するのみならず,液液界面における振動現象の動因の解明など,これまでに十分には解明されていない界面現象を説明することが出来るという点で,画期的なものである.4.液液界面における帯電粒子のなだれ型融合に関する研究エマルション粒子の界面への融合条件を詳しく検討した.間欠的に観測される電流スパイクが,大きな(直径約200μm)W/Oエマルション(水滴)の界面への融合に起因するものであること,および,この融合にともなって小さなW/Oエマルション粒子の融合が誘起されること,を明らかにし,後者を「なだれ型」融合と名付けた.5.液液二相系化学反応の研究本研究では,第1に,界面電位差を変えることにより水相に溶かしたジアゾニウムイオンを1,2-ジクロロエタン(DCE)に駆動し,DCE中のカプラーとアゾカップリングさせる反応系を構築し,反応機構をおもにサイクリックボルタンメトリ-(CV)を用いて電気化学的に調べた.DCE中でのアゾカップリングで生成した水素イオンがDCE中のとどまらず,水相側に移行するErCiErがより妥当な反応機構であることが明らかになった.さらに,水相側からDCE相に移行してきたジアゾニウムイオンをDCE相側で還元するタイプのEC反応を構築した.生成した芳香族ラジカルをもちいてスチレンのラジカル重合を界面で行わせることが出来ることを示した.6.有機薄膜液相系における電子移動-イオン移動共役のボルタンメトリーロ液液界面では,電子移動(ET)とイオン移動(IT)が界面電位差を媒介として共役しうる.チオールの自己組織化単分子膜で被覆したAu(111)電極上に有機薄膜を形成し,それを水相と接触させ電極|有機薄膜|水系におけるボルタンメトリーの実験的および理論的研究を行った.このタイプの系における有機薄膜|水界面のET-IT共役を定量的に明らかにした.
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液液二相系における界面特異的反応過程の研究
1998年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1.イオンの界面透過過程の研究交流ボルタンメトリー法と交流変調電位規制界面蛍光法を用いて,キサンテン色素イオンの遅い界面透過はイオンの界面への吸着によるものであることを,明らかにした.通常では界面活性があるとは考えられていないイオンでも,イオン移動のダイナミックな特性にはその弱い界面活性が重要であることを示した.2.イオンの界面吸着に関する研究界面活性イオンの吸着は,その標準イオン移動電位近傍で常に最大となることを明らかにした.この結論は,イオンの性質や溶媒の性質,共存物質などによらない一般的なものであるので,液液二相系の性質を考えるときの重要な指針となる.3.界面の安定性に関する研究界面不安定性の新しい規準として,界面張力-電位曲線の曲率が正,という新しい関係を見いだした.また,このことを実験的に証明した.この新しい不安定性の概念は,自発的乳化を説明するのみならず,液液界面における振動現象の動因の解明など,これまでに十分には解明されていない界面現象を説明することが出来るという点で,画期的なものである.4.液液界面における帯電粒子のなだれ型融合に関する研究エマルション粒子の界面への融合条件を詳しく検討した.間欠的に観測される電流スパイクが,大きな(直径約200μm)W/Oエマルション(水滴)の界面への融合に起因するものであること,および,この融合にともなって小さなW/Oエマルション粒子の融合が誘起されること,を明らかにし,後者を「なだれ型」融合と名付けた.5.液液二相系化学反応の研究本研究では,第1に,界面電位差を変えることにより水相に溶かしたジアゾニウムイオンを1,2-ジクロロエタン(DCE)に駆動し,DCE中のカプラーとアゾカップリングさせる反応系を構築し,反応機構をおもにサイクリックボルタンメトリ-(CV)を用いて電気化学的に調べた.DCE中でのアゾカップリングで生成した水素イオンがDCE中のとどまらず,水相側に移行するErCiErがより妥当な反応機構であることが明らかになった.さらに,水相側からDCE相に移行してきたジアゾニウムイオンをDCE相側で還元するタイプのEC反応を構築した.生成した芳香族ラジカルをもちいてスチレンのラジカル重合を界面で行わせることが出来ることを示した.6.有機薄膜液相系における電子移動-イオン移動共役のボルタンメトリーロ液液界面では,電子移動(ET)とイオン移動(IT)が界面電位差を媒介として共役しうる.チオールの自己組織化単分子膜で被覆したAu(111)電極上に有機薄膜を形成し,それを水相と接触させ電極|有機薄膜|水系におけるボルタンメトリーの実験的および理論的研究を行った.このタイプの系における有機薄膜|水界面のET-IT共役を定量的に明らかにした.