科研費(文科省・学振)獲得実績 - 山本 雅博
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生体内NAD+/NADHレドックス反応を模倣した超効率電極界面の創成
2022年4月 - 2025年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
冨永 昌人, 三重 安弘, 山本 雅博
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積分方程式/第一原理計算結合理論を用いた電極界面現象の解明
2018年4月 - 2021年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
山本 雅博
本年度は,1)氷表面の第一原理計算,2)金属電極表面(Al(100)面, Ag(100)面)のQuantum Espresso(QE)コード(https://www.quantum-espresso.org/ )を用いた第一原理計算,3)金属電極帯電表面(Al(100)面, Ag(100)面)の第一原理計算としてQE+ESM(Effective Screening Medium有効媒質理論)法をもちいて金属|真空界面での電位分布を求めた。さらに,4) NaCl電解質水溶液|Al(100)電極帯電界面とRISM(Reference Interaction Site Model)積分方程式を結合させた第一原理計算(QE+ESM+RISM)計算を行い,電極から沖合へのイオン分布を求めるところまで完了した。ただし,計算は濃度は1点(1 mol dm-3)で正に帯電した電極の電位もある一定の条件でしか計算できなかった。すべての計算は,産総研の大谷らが作成したコードを用いた。1), 2), 3)ではこれまで報告された理論計算とよく一致し,本研究での計算が正確に求められていることを確認した。4)では,多くの帯電状態や多くの電解質濃度での計算はできなかったが,正に帯電した電極表面からのナトリウムイオンおよび塩化物イオンの動径分布関数を求めたところ,物理的に意味のある結果となった。実験結果と比較するには,多くの帯電状態(電位)および多くの電解質濃度について求める必要があるが,3)の計算で,その計算結果を解釈するところで多くの検討を重ねたため,本年度はそこまで到達しなかった。
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積分方程式/第一原理計算結合理論を用いた電極界面現象の解明
2018年4月 - 2021年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
山本 雅博
本年度は,1)氷表面の第一原理計算,2)金属電極表面(Al(100)面, Ag(100)面)のQuantum Espresso(QE)コード(https://www.quantum-espresso.org/ )を用いた第一原理計算,3)金属電極帯電表面(Al(100)面, Ag(100)面)の第一原理計算としてQE+ESM(Effective Screening Medium有効媒質理論)法をもちいて金属|真空界面での電位分布を求めた。さらに,4) NaCl電解質水溶液|Al(100)電極帯電界面とRISM(Reference Interaction Site Model)積分方程式を結合させた第一原理計算(QE+ESM+RISM)計算を行い,電極から沖合へのイオン分布を求めるところまで完了した。ただし,計算は濃度は1点(1 mol dm-3)で正に帯電した電極の電位もある一定の条件でしか計算できなかった。すべての計算は,産総研の大谷らが作成したコードを用いた。1), 2), 3)ではこれまで報告された理論計算とよく一致し,本研究での計算が正確に求められていることを確認した。4)では,多くの帯電状態や多くの電解質濃度での計算はできなかったが,正に帯電した電極表面からのナトリウムイオンおよび塩化物イオンの動径分布関数を求めたところ,物理的に意味のある結果となった。実験結果と比較するには,多くの帯電状態(電位)および多くの電解質濃度について求める必要があるが,3)の計算で,その計算結果を解釈するところで多くの検討を重ねたため,本年度はそこまで到達しなかった。
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積分方程式/第Ⅰ原理計算結合理論を用いた電極界面現象の解明
2018年4月 - 2021年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
積分方程式/第Ⅰ原理計算結合理論を用いた電極界面現象の解明
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濃厚電解質水溶液中のイオン活量測定の基盤形成と海水の酸性化精密計測への応用
2015年4月 - 2018年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
垣内 隆, 山本 雅博
本研究は,模擬海水の水素イオン活量に基づくpHをイオン液体塩橋(ILSB)を用いて95%信頼区間±0.01で測定できることを示した.同時に、海水中の pHa の測定の為の技術的課題を明確にした。また、高イオン強度の HCl-NaCl 混合水溶液の pHa 測定において混合比が0.5付近で H+ 活量が安定化される特異的挙動の発見、参照電極電位の変動要因としてのILSB を通した水の動的輸送の存在、ILSB装着参照電極が水やイオン液体を溶媒とする電気化学において示す作用電極の電位の標準水素電極基準への一義的関連づけ、論争による水素イオン活量の可測性の明示、当初予期していなかった成果を得た。
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濃厚電解質水溶液中のイオン活量測定の基盤形成と海水の酸性化精密計測への応用
2015年4月 - 2018年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
垣内 隆, 山本 雅博
本研究は,模擬海水の水素イオン活量に基づくpHをイオン液体塩橋(ILSB)を用いて95%信頼区間±0.01で測定できることを示した.同時に、海水中の pHa の測定の為の技術的課題を明確にした。また、高イオン強度の HCl-NaCl 混合水溶液の pHa 測定において混合比が0.5付近で H+ 活量が安定化される特異的挙動の発見、参照電極電位の変動要因としてのILSB を通した水の動的輸送の存在、ILSB装着参照電極が水やイオン液体を溶媒とする電気化学において示す作用電極の電位の標準水素電極基準への一義的関連づけ、論争による水素イオン活量の可測性の明示、当初予期していなかった成果を得た。
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2014年4月 - 2017年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
大堺 利行, 山本 雅博, 枝 和男, 片野 肇
イオンの溶媒和エネルギーは、溶媒抽出、液体クロマトグラフィー、イオンセンサーなどの分離・検出系や、生体膜でのイオン透過を理解する上で重要である。本研究では、先に研究代表者が開発した新しいイオン溶媒和のモデル(非ボルン型理論)を、イオンの油水界面での移動エネルギー(ΔGtr)や吸着エネルギー、酸の解離指数(pKa)などの理論的予測に応用する研究を行った。その結果、ニトロベンゼン/水界面および1,2-ジクロロエタン/水界面における各種イオンのΔGtrが精度よく計算によって予測できることが分かった。さらに、イオン性薬剤の生体膜透過を計算により予測できる可能性が示された。
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界面の分子スケールでの局所電気二重層効果による酸化還元反応速度の理論解析
2009年 - 2010年
学術振興機構 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
山本 雅博
固液界面での電気二重層において,Au(111)面上の末端に解離基をもつチオール自己組織化単分子膜のように表面電荷密度0.74μCm^<-2>が大きくなる場合は,電解質溶液中に存在する酸化還元体の界面での酸化還元反応速度が,帯電していない表面(酸化還元反応はブロックされる)にくらべて5桁以上も増加する。この現象について我々は,末端解離基,電解質イオンを考慮したPrimitive Model(PM)を用いたモンテカルロ計算により電気2重層の構造,3次元電位分布を求めた。その3次元電位分布とButler-Volmer-Frumkinの理論を用いて酸化還元速度の電気二重層依存性を求め,実験結果と比較検討した。その結果,表面濃度が小さい解離基の回りの局所的な電気二重層の効果で5桁以上の酸化還元体の速度の増加が説明できることを示した。
本年は,支持電解質を構成するイオンが2:1あるいは1:2と非対称電解質の場合,電気二重層構造はどのよう構成するのかを,解析解としてGouy-Chapman-Stern理論を用いて定式化し,Poisson-Boltzman方程式を数値的に解くことによって求めた。また,上記のPMモデルによるモンテカルロシミュレーションを用いて,2:1,1:2,2:2電解質の電位逆転領域を求めた。 -
界面の分子スケールでの局所電気二重層効果による酸化還元反応速度の理論解析
2009年 - 2010年
学術振興機構 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
山本 雅博
固液界面での電気二重層において,Au(111)面上の末端に解離基をもつチオール自己組織化単分子膜のように表面電荷密度0.74μCm^<-2>が大きくなる場合は,電解質溶液中に存在する酸化還元体の界面での酸化還元反応速度が,帯電していない表面(酸化還元反応はブロックされる)にくらべて5桁以上も増加する。この現象について我々は,末端解離基,電解質イオンを考慮したPrimitive Model(PM)を用いたモンテカルロ計算により電気2重層の構造,3次元電位分布を求めた。その3次元電位分布とButler-Volmer-Frumkinの理論を用いて酸化還元速度の電気二重層依存性を求め,実験結果と比較検討した。その結果,表面濃度が小さい解離基の回りの局所的な電気二重層の効果で5桁以上の酸化還元体の速度の増加が説明できることを示した。
本年は,支持電解質を構成するイオンが2:1あるいは1:2と非対称電解質の場合,電気二重層構造はどのよう構成するのかを,解析解としてGouy-Chapman-Stern理論を用いて定式化し,Poisson-Boltzman方程式を数値的に解くことによって求めた。また,上記のPMモデルによるモンテカルロシミュレーションを用いて,2:1,1:2,2:2電解質の電位逆転領域を求めた。 -
末端に解離基をもつ自己組織化単分子膜上での電子移動反応の電気二重層による制御
2006年 - 2007年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
山本 雅博, 垣内 隆, 西 直哉
Au(111)単結晶電極表面に形成されたグルタチオン(GSH: Glu-Cys-Gly)自己組織化単分子膜(SAM)上での酸化還元反応は電解質溶液のpHおよび錯体を形成すると考えられている多価カチオンの濃度,価数,イオン種に依存して反応速度が数桁変化する。これまでの報告では「ion-gating」機構によって反応速度の増加が説明されてきた。我々は、電気二重層によるポテンシャル(電位)が酸化還元反応を制御していると仮説を立て実験および理論的に検証した。実験(グルタチオンのAu(111)表面における自己組織化膜の形成,グルタチオン自己組織化単分子膜(GS-SAM)上での酸化還元反応:電極反応速度に与えるpHの効果,GS-SAM上での酸化還元反応:電極反応速度に与える多価カチオンの効果)および理論解析(グルタチオン自己組織化膜上での酸化還元反応速度のpH依存性およびCa-グルタチオン自己組織化膜上での酸化還元反応速度の電気2重層効果:Primitive modelを用いたモンテカルロシミュレーション)によって,Au(111)面上のグルタチオン自己組織化単分子膜上での酸化還元反応はイオンゲート機構よりも電気二重層効果により決定されていると結論づけられた。
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柔軟界面系における電気化学的不安定性発現の微視的過程の研究
2006年 - 2007年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉
微小ガラス管の先端に形成させた液液界面を用いて、「界面の電気化学的不安定性」(帯電した界面の熱力学的不安定性、以下EI)の発現に対する界面の面積の効果を調べた。界面面積の減少とともに、異常増加電流(AIIC)を引き起こすのに必要なデシルアンモニウムイオン(DeNH_3+)濃度は増加する。AIICに面積効果があるということは、不安定条件の成立とその発現形態を区別する必要があることを示唆する。
デシル硫酸イオン(DeSO_4-)およびDeNH_3+の1,2-ジクロロエタン(DCE)|水界面における吸着を、ボルタモグラムと電気毛管曲線の同時測定により調べ、吸着標準ギブズエネルギーを求めた。DeSO_4^-およびDeNH_3+の所与の電位における吸着標準ギブズエネルギーは界面電位差に比例し、その比例定数はそれぞれ9.1および-9.8kJ mol^<-1> V^<-1>であった。得られた実験結果は、EIの条件下でも、AIICが常に発現するとは限らないことをしめし、上記の微小界面で得られた結果とも符合する。
EI発現過程の共焦点顕微蛍光イメージング法を確立した。電位制御したDCE|水界面を蛍光性リン脂質で修飾し、共焦点顕微鏡で蛍光を観察することにより、EIのモードに入る付近の界面の微視的状況を観察した。ドデシル硫酸イオンの界面を横切る移動に伴って、界面が安定な電位域では界面からの蛍光は一様であるのに対し、EI条件を満たすと考えられる電位域では界面からの蛍光がないかきわめて弱い、暗いドメインが生成し、場所的に蛍光強度が不均一になることがわかった。この微小ドメインは、EI条件だがAIICではない電位領域では、揺らぐ、すなわち、その面積は時間について、振動的である。 -
末端に解離基をもつ自己組織化単分子膜上での電子移動反応の電気二重層による制御
2006年 - 2007年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
山本 雅博, 垣内 隆, 西 直哉
Au(111)単結晶電極表面に形成されたグルタチオン(GSH: Glu-Cys-Gly)自己組織化単分子膜(SAM)上での酸化還元反応は電解質溶液のpHおよび錯体を形成すると考えられている多価カチオンの濃度,価数,イオン種に依存して反応速度が数桁変化する。これまでの報告では「ion-gating」機構によって反応速度の増加が説明されてきた。我々は、電気二重層によるポテンシャル(電位)が酸化還元反応を制御していると仮説を立て実験および理論的に検証した。実験(グルタチオンのAu(111)表面における自己組織化膜の形成,グルタチオン自己組織化単分子膜(GS-SAM)上での酸化還元反応:電極反応速度に与えるpHの効果,GS-SAM上での酸化還元反応:電極反応速度に与える多価カチオンの効果)および理論解析(グルタチオン自己組織化膜上での酸化還元反応速度のpH依存性およびCa-グルタチオン自己組織化膜上での酸化還元反応速度の電気2重層効果:Primitive modelを用いたモンテカルロシミュレーション)によって,Au(111)面上のグルタチオン自己組織化単分子膜上での酸化還元反応はイオンゲート機構よりも電気二重層効果により決定されていると結論づけられた。
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柔軟界面系における電気化学的不安定性発現の微視的過程の研究
2006年 - 2007年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉
微小ガラス管の先端に形成させた液液界面を用いて、「界面の電気化学的不安定性」(帯電した界面の熱力学的不安定性、以下EI)の発現に対する界面の面積の効果を調べた。界面面積の減少とともに、異常増加電流(AIIC)を引き起こすのに必要なデシルアンモニウムイオン(DeNH_3+)濃度は増加する。AIICに面積効果があるということは、不安定条件の成立とその発現形態を区別する必要があることを示唆する。
デシル硫酸イオン(DeSO_4-)およびDeNH_3+の1,2-ジクロロエタン(DCE)|水界面における吸着を、ボルタモグラムと電気毛管曲線の同時測定により調べ、吸着標準ギブズエネルギーを求めた。DeSO_4^-およびDeNH_3+の所与の電位における吸着標準ギブズエネルギーは界面電位差に比例し、その比例定数はそれぞれ9.1および-9.8kJ mol^<-1> V^<-1>であった。得られた実験結果は、EIの条件下でも、AIICが常に発現するとは限らないことをしめし、上記の微小界面で得られた結果とも符合する。
EI発現過程の共焦点顕微蛍光イメージング法を確立した。電位制御したDCE|水界面を蛍光性リン脂質で修飾し、共焦点顕微鏡で蛍光を観察することにより、EIのモードに入る付近の界面の微視的状況を観察した。ドデシル硫酸イオンの界面を横切る移動に伴って、界面が安定な電位域では界面からの蛍光は一様であるのに対し、EI条件を満たすと考えられる電位域では界面からの蛍光がないかきわめて弱い、暗いドメインが生成し、場所的に蛍光強度が不均一になることがわかった。この微小ドメインは、EI条件だがAIICではない電位領域では、揺らぐ、すなわち、その面積は時間について、振動的である。 -
概念的に新しい塩橋の開発と液間電位差研究の新展開
2005年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽研究
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉
疎水性の常温溶融塩(イオン液体、以下RTMS)からなる塩橋を作成し、その性能を確認した。
まず1-Methyl-3-octylimidazolium bis(trifuluoromethylsulfonyl)imide(C8mimC1C1N)を塩橋とし、種々の電解質水溶液と接触させたときの電位変動を調べた。濃度が1mMから2Mの濃度範囲のKCl, NaCl, LiCl, HCl水溶液との界面の電位差は界面生成直後から1mV以内で長時間安定であった。RTMSをフッ化カビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体でゲル化してもこの安定性は不変であった。したがって、界面の電位差はC8mim^+イオンとC1C1N^-イオンの分配電位差で規定されており、このRTMSは予想通り概念的に新しい塩橋として働くことが実証されたのみならず、ゲル化によってもこの性質が損なわれないことから、実用的にも有用であることが明らかとなった。さらに、1mM以下の低イオン強度の水溶液と接した場合でも電位が安定であることから、既存の濃厚KCl水溶液の塩橋に比して、試料の汚染が少ないこと、メンテナンスに要する労力が飛躍的に軽減されること、広いイオン強度の溶液に対して安定な電位を示すこと、界面の形状に影響されないこと、など大きな利点を有することが証明された。
塩橋が示す電位を最適化することなどを目的として、他のイオンからなるRTMSについても、塩橋としての性能を比較検討した。アニオンをpentafluoroethylsulfonyltrifluoromethylsulfonylimideやbis(pentafluoroethylsulfonyl)imideとした場合も、上記のRTMSとほぼ同等の性能が得られた。また、perfluoroalkyltrifluoroborateについても、ほぼ同等の性能が得られた。 -
精密に電位制御された自己組織化単分子膜表面における特異的錯形成の分子機構
2005年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉
Au(111)電極表面に形成されたグルタチオン(GSH)自己組織化単分子膜(SAM)の金属イオンに応答した配向変化の分子機構を明らかにすることを目的とした。GSH SAMは、溶液中の多価カチオンの性質と濃度に依存して、電極反応のブロッキングの強さを変えることが知られている。錯体に対する電極反応速度の増加は酸化還元体イオンを透過させるチャンネルの形成による「ion-gating」機構によって説明されてきた。我々は、多価カチオンとグルタチオンの相互作用による構造変化のみでこの現象が説明されるのではなく、自己組織化膜末端の解離基と多価カチオンが錯形成して構築した2次元配位空間上での電気二重層によるポテンシャル(電位)が酸化還元反応を制御しているのではないかという仮説をたて,それを実験および理論的に検証することを試みた。
我々は、Au(111)単結晶表面へGSHを吸着させ,膜の最適な生成条件を,浸漬時間、溶液の種類、溶液のpH等の条件を変えて求めた。自己組織化単分子膜の還元的脱離から、吸着量・膜の分子間相互作用を求め偏光変調表面反射赤外分光測定より自己組織化膜の吸着量・配向を解析した結果、緻密で安定な自己組織化膜を生成するには3日間の浸漬が必要であることが明らかとなった。自己組織化単分子膜の還元脱離CVの結果から,カルシウムの有無に関わらず,グルタチオンはアルカンチオールの吸着量の70%程度吸着している。この吸着量から,金に吸着している硫黄原子間の平均距離は6Åとなった。水中でのグルタチオンおよびカルシウム錯体の構造の量子化学計算および錯体の大きさ(6Å)を考慮すると単純な「イオンゲート」機構だけでは説明できないように考えられる。 -
概念的に新しい塩橋の開発と液間電位差研究の新展開
2005年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽研究
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉
疎水性の常温溶融塩(イオン液体、以下RTMS)からなる塩橋を作成し、その性能を確認した。
まず1-Methyl-3-octylimidazolium bis(trifuluoromethylsulfonyl)imide(C8mimC1C1N)を塩橋とし、種々の電解質水溶液と接触させたときの電位変動を調べた。濃度が1mMから2Mの濃度範囲のKCl, NaCl, LiCl, HCl水溶液との界面の電位差は界面生成直後から1mV以内で長時間安定であった。RTMSをフッ化カビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体でゲル化してもこの安定性は不変であった。したがって、界面の電位差はC8mim^+イオンとC1C1N^-イオンの分配電位差で規定されており、このRTMSは予想通り概念的に新しい塩橋として働くことが実証されたのみならず、ゲル化によってもこの性質が損なわれないことから、実用的にも有用であることが明らかとなった。さらに、1mM以下の低イオン強度の水溶液と接した場合でも電位が安定であることから、既存の濃厚KCl水溶液の塩橋に比して、試料の汚染が少ないこと、メンテナンスに要する労力が飛躍的に軽減されること、広いイオン強度の溶液に対して安定な電位を示すこと、界面の形状に影響されないこと、など大きな利点を有することが証明された。
塩橋が示す電位を最適化することなどを目的として、他のイオンからなるRTMSについても、塩橋としての性能を比較検討した。アニオンをpentafluoroethylsulfonyltrifluoromethylsulfonylimideやbis(pentafluoroethylsulfonyl)imideとした場合も、上記のRTMSとほぼ同等の性能が得られた。また、perfluoroalkyltrifluoroborateについても、ほぼ同等の性能が得られた。 -
精密に電位制御された自己組織化単分子膜表面における特異的錯形成の分子機構
2005年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉
Au(111)電極表面に形成されたグルタチオン(GSH)自己組織化単分子膜(SAM)の金属イオンに応答した配向変化の分子機構を明らかにすることを目的とした。GSH SAMは、溶液中の多価カチオンの性質と濃度に依存して、電極反応のブロッキングの強さを変えることが知られている。錯体に対する電極反応速度の増加は酸化還元体イオンを透過させるチャンネルの形成による「ion-gating」機構によって説明されてきた。我々は、多価カチオンとグルタチオンの相互作用による構造変化のみでこの現象が説明されるのではなく、自己組織化膜末端の解離基と多価カチオンが錯形成して構築した2次元配位空間上での電気二重層によるポテンシャル(電位)が酸化還元反応を制御しているのではないかという仮説をたて,それを実験および理論的に検証することを試みた。
我々は、Au(111)単結晶表面へGSHを吸着させ,膜の最適な生成条件を,浸漬時間、溶液の種類、溶液のpH等の条件を変えて求めた。自己組織化単分子膜の還元的脱離から、吸着量・膜の分子間相互作用を求め偏光変調表面反射赤外分光測定より自己組織化膜の吸着量・配向を解析した結果、緻密で安定な自己組織化膜を生成するには3日間の浸漬が必要であることが明らかとなった。自己組織化単分子膜の還元脱離CVの結果から,カルシウムの有無に関わらず,グルタチオンはアルカンチオールの吸着量の70%程度吸着している。この吸着量から,金に吸着している硫黄原子間の平均距離は6Åとなった。水中でのグルタチオンおよびカルシウム錯体の構造の量子化学計算および錯体の大きさ(6Å)を考慮すると単純な「イオンゲート」機構だけでは説明できないように考えられる。 -
帯電界面の熱力学的不安定性:発見の一般化と膜系への展開
2003年 - 2004年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽研究
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉, 保原 大介
前年度のテーマを引き続き研究すると共に、界面不安定性に与える界面面積の影響と不安定性の顕微鏡による観察をおこなった。界面の電気化学的不安定性は熱力学的な不安定性であるので、安定-不安定の相互変化は擬2次元系の相転移と考えられる。したがって、その発現のダイナミックなプロセスは、過冷却水における核生成・成長と同様に、熱力学的な安定条件とは別に検討されなければならない。核生成の確率は、界面の大きさを制限している縁の効果を別とすれば、界面の面積に比例すると考えられる。この予測を確かめるために、界面の大きさを変えて不安定性の発現を調べた。
ガラスキャピラリーを引き延ばし、直径が数十ないし数ミクロンのその先端に作成した界面では、電流-電圧曲線の形から判別した不安定性の発現は確認されたが、その発現確率は界面の面積の減少と共に小さくなることを見いだした。まず第一に、この微小界面を用いた実験では、大きい界面ではほぼ必然的である正帰還による溶液抵抗の補償を行っていないので、不安定性の発現は溶液抵抗の補償によって生じた人為的な現象ではないことが確認された。これは界面の電気化学的不安定性を一般化する上で非常に重要な知見である。第二に、不安定性の発現確率が界面の面積に依存するという直感とは相反する知見は、不安定性の性質を知る上で重要である。また、不安定性を引き起こすのに必要な界面活性イオンの濃度が増加することを見いだした。
界面の面積が10μm^2以下では、界面活性イオンの濃度を10mMまで上げても不安定性による電流の乱れや増加は見られなかった。界面の縁の効果が10μm^2程度のスケールで現れるとは考えにくいので、見られた対流の抑制は、キャピラリー内での物質輸送の困難さによる対流の抑制によるものかもしれない。このことは、顕微鏡による界面の観察からも裏付けられた。すなわち、不安定電位領域での界面の振動は、必ずしも巨視的な電流-電圧曲線の異常を引き起こさない。
脂質二分子膜に関する研究に関しては、本年度は、膜を横切る電位差の制御と電流測定のための新しい装置を構築することにほぼ専念した。また、ベシクルを安定して形成させる実験条件と単一ベシクルを補足する方法を検討した。
以上の結果は、前年度の結果と併せて、界面の電気化学的不安定性の一般性を明らかにするために、大きく寄与すると考えられ、膜系の不安定性の研究の基礎を形作ることができた。 -
帯電界面の熱力学的不安定性:発見の一般化と膜系への展開
2003年 - 2004年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽研究
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉, 保原 大介
前年度のテーマを引き続き研究すると共に、界面不安定性に与える界面面積の影響と不安定性の顕微鏡による観察をおこなった。界面の電気化学的不安定性は熱力学的な不安定性であるので、安定-不安定の相互変化は擬2次元系の相転移と考えられる。したがって、その発現のダイナミックなプロセスは、過冷却水における核生成・成長と同様に、熱力学的な安定条件とは別に検討されなければならない。核生成の確率は、界面の大きさを制限している縁の効果を別とすれば、界面の面積に比例すると考えられる。この予測を確かめるために、界面の大きさを変えて不安定性の発現を調べた。
ガラスキャピラリーを引き延ばし、直径が数十ないし数ミクロンのその先端に作成した界面では、電流-電圧曲線の形から判別した不安定性の発現は確認されたが、その発現確率は界面の面積の減少と共に小さくなることを見いだした。まず第一に、この微小界面を用いた実験では、大きい界面ではほぼ必然的である正帰還による溶液抵抗の補償を行っていないので、不安定性の発現は溶液抵抗の補償によって生じた人為的な現象ではないことが確認された。これは界面の電気化学的不安定性を一般化する上で非常に重要な知見である。第二に、不安定性の発現確率が界面の面積に依存するという直感とは相反する知見は、不安定性の性質を知る上で重要である。また、不安定性を引き起こすのに必要な界面活性イオンの濃度が増加することを見いだした。
界面の面積が10μm^2以下では、界面活性イオンの濃度を10mMまで上げても不安定性による電流の乱れや増加は見られなかった。界面の縁の効果が10μm^2程度のスケールで現れるとは考えにくいので、見られた対流の抑制は、キャピラリー内での物質輸送の困難さによる対流の抑制によるものかもしれない。このことは、顕微鏡による界面の観察からも裏付けられた。すなわち、不安定電位領域での界面の振動は、必ずしも巨視的な電流-電圧曲線の異常を引き起こさない。
脂質二分子膜に関する研究に関しては、本年度は、膜を横切る電位差の制御と電流測定のための新しい装置を構築することにほぼ専念した。また、ベシクルを安定して形成させる実験条件と単一ベシクルを補足する方法を検討した。
以上の結果は、前年度の結果と併せて、界面の電気化学的不安定性の一般性を明らかにするために、大きく寄与すると考えられ、膜系の不安定性の研究の基礎を形作ることができた。 -
ナノスケール液液二相系における電荷移動共役の機構解析と分離化学への応用
2002年 - 2004年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
垣内 隆, 山本 雅博, 西 直哉, 保原 大介
ナノスケール液液2相系における電荷移動共役を明らかにするために、系の基礎的性質の解明と異なる液液系の構築に重点を置いて研究し、また、それに付随して明らかになった新しい事実・現象・法則である液液界面の電気化学的不安定性に関する研究を展開した。電荷移動共役のもっとも単純な系として、表面が分子レベルで規定された自己組織化単分子膜上に展開したイオン液体薄膜を用いるイオン移動-電荷移動共役系を構築し、その挙動を明らかにした。2.微小液液界面における電荷移動を、(1)イオン液体エマルションにおける電位決定機構、(2)ガラスピペット尖端に形成した微小液液界面におけるイオン移動-電子移動共役を利用する電子移動速度の決定、(3)AOTを利用した逆ミセル空間における蛍光分子周辺の溶媒ダイナミクス、(4)巨大ユニラメラベシクルにおける電位制御下でのイオン移動、の四つの側面から研究した。また、この研究の過程で明らかになってきた界面の電気化学的不安定性が界面の熱力学的安定条件からの逸脱であることを証明し、この不安定性が多くの系で見いだされることを明らかにした。もうひとつの大きな派生的成果は、疎水性イオン液体と水からなる新規な2相系の電気化学的性質の解明である。この界面電位差の性質を理論的に基礎付け、同時に立証した、また、界面の構造に関する研究を展開した。これらの基礎研究は実用に直接結びつくものであり、イオン液体塩橋はその好例であることを示した。すなわち、本研究の過程で発見した概念的に新しいイオン液体塩橋がこれまで100年の間、使われ続けてきた塩化カリウム塩橋に取って代わる可能性を持つことを実証した。また、イオン液体薄膜等、ナノスケール電荷移動共役に用いるシステム構築のための基板として有用な、ナノスケールで配列が制御された自己組織化単分子膜の研究を展開し、多くの知見を得た。
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帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
2001年 - 2002年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
当初の目的に掲げた信号増幅システムに関しては、昨年に発表したように、そのプロトタイプを作ることが出来た。今年度は、この研究の過程で見いだした興味深い界面現象である「帯電した液液界面の電気化学的不安定性」に重点を置いて研究した。
水と油などの二相間の界面が熱力学的に安定に存在するためには、界面張力の界面電位差についての二次微分は負でなければならない。
これは、界面の持つ電気容量が正でなければならないことを意味する。通常の液液界面ではこの条件は満たされているが、イオン性界面活性剤など、界面に電位依存的に吸着するイオンが系に存在すると、この条件が満たされなくなることがある。これは、吸着と分配がともに電位依存的に起きることによる。これが界面の電気化学的不安定性である。この不安定性は、1.界面電位差のある範囲で窓上に存在する、2.界面張力が正であるにもかかわらず不安定になる、3.不安定領域は常に、そのイオンが持つ標準イオン移動電位付近に存在する、などの特徴を有する。末端に親水基としてSO_3^-あるいはSO_4^-を持つ一連の脂肪族アニオン性界面活性剤および、アルキルアンモニウムイオンやイミダゾリウムイオンなどのカチオン性界面活性剤について、理論的予測を裏付ける実験結果を得た。界面のビデオ画像から、電流の乱れは界面付近の溶液の攪拌と対応しており、また、エマルション生成が認められた。このことは、不安定電位領域では、マランゴニ効果による機械的運動とエマルション生成による界面の消滅が起きている。
界面の電気化学的不安定性は、界面は自立的な相とは見なし得ないものの、2成分液体の相分離などの相転移と本質的に同一な相転移の一種であると考えることができ、電気化学的安定-不安定の転移は、電気化学的界面転移、界面消滅転移と呼ぶこともできよう。 -
帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
2001年 - 2002年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
当初の目的に掲げた信号増幅システムに関しては、昨年に発表したように、そのプロトタイプを作ることが出来た。今年度は、この研究の過程で見いだした興味深い界面現象である「帯電した液液界面の電気化学的不安定性」に重点を置いて研究した。
水と油などの二相間の界面が熱力学的に安定に存在するためには、界面張力の界面電位差についての二次微分は負でなければならない。
これは、界面の持つ電気容量が正でなければならないことを意味する。通常の液液界面ではこの条件は満たされているが、イオン性界面活性剤など、界面に電位依存的に吸着するイオンが系に存在すると、この条件が満たされなくなることがある。これは、吸着と分配がともに電位依存的に起きることによる。これが界面の電気化学的不安定性である。この不安定性は、1.界面電位差のある範囲で窓上に存在する、2.界面張力が正であるにもかかわらず不安定になる、3.不安定領域は常に、そのイオンが持つ標準イオン移動電位付近に存在する、などの特徴を有する。末端に親水基としてSO_3^-あるいはSO_4^-を持つ一連の脂肪族アニオン性界面活性剤および、アルキルアンモニウムイオンやイミダゾリウムイオンなどのカチオン性界面活性剤について、理論的予測を裏付ける実験結果を得た。界面のビデオ画像から、電流の乱れは界面付近の溶液の攪拌と対応しており、また、エマルション生成が認められた。このことは、不安定電位領域では、マランゴニ効果による機械的運動とエマルション生成による界面の消滅が起きている。
界面の電気化学的不安定性は、界面は自立的な相とは見なし得ないものの、2成分液体の相分離などの相転移と本質的に同一な相転移の一種であると考えることができ、電気化学的安定-不安定の転移は、電気化学的界面転移、界面消滅転移と呼ぶこともできよう。 -
帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
1999年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1)帯電した液液界面の電気化学的不安定性
エマルション粒子の油水界面へのなだれ的融合を調べるための実験系としてAerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍に形成されるエマルションの生成メカニズムと、融合条件を検討してきた。その過程で、エマルションが自発的に形成されるメカニズムが未解明であることがわかったので、この点を詳しく検討した。その結果、帯電した液液界面の安定性に関する一般的基準を明確にすることが出来た。これは、本研究の目的のみならず、界面化学一般に重要な新概念であり、液膜の非線形振動現象など、本特定研究の他の研究分野にも新しい考え方を提案するものである。
【電気化学的不安定性の理論】液液二相界面におけるイオン性界面活性剤など界面活性なイオンの吸着は、二相間の界面電位差Eに強く依存する。吸着の電位依存性に対する熱力学的考察により、そのイオンの標準イオン移動電位を中心としたある特定の電位領域で最大となり、その外側では吸着は起こらないことを示すことができる。それに対応して、吸着が生じる電位領域では界面張力γが低下する。一方、γは界面の両側にできる電気二重層のために界面活性剤の吸着がない場合でも、電気毛管極大を頂点としてEに応じて放物線状(-coshx状)に変化する。これらの二つの寄与が加算的であると考えて界面活性なイオンが存在する場合のγ vs.E曲線(電気毛管曲線)を求めた。
電気毛管曲線は界面活性イオンの標準イオン移動電位付近で凹状になり、γのEについての2次微分はくぼみの底付近を中心として正になる。これは、界面の微分容量が負になることを意味する。電気容量が負になると系は本質的に不安定になりγが大きく正でも、自発的にエマルションが生じる。この不安定性は、γが有意に正の値を持つときでも生じるので、電気乳化とは違った、これまでには知られていない新しい不安定性である。その基準は、(d^2γ/dE^2)_<γ,ρ,μ>>0実際には、不安定になるか否か、つまり電気毛管曲線の曲率が正になるか否かは、界面活性イオンの標準イオン移動電位とその吸着がないときの電気毛管極大電位(ゼロ電荷電位)との相対的な位置にも依存する。
この不安定電位窓の存在を、一連のアルキルスルフォン酸のイオン移動ボルタンメトリーなどにより証明した。不安定性の例を下図に示す。ある特定の電位範囲でのみ界面が不安定になり、再現性良くカオス的な挙動を示す。AOT存在下での自発エマルション生成は、この理論で説明できる。また、液膜の振動現象の根拠を与える。
2)ガラスキャピラリー電極を用いた微視的なだれ型融合の検出
これまでに数百μm程度の巨視的なエマルションのなだれ型融合を報告してきた^<1.2)>。これにくわえて、より小さなエマルションの液液界面への融合過程が存在することを、先端径が10〜100μmガラスキャピラリーの先端に作った液液界面を用いて実験的に示した。この場合も、融合はなだれ型で生じているようである。 -
帯電粒子のなだれ型界面移動とシグナル増幅への応用
1999年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1)帯電した液液界面の電気化学的不安定性
エマルション粒子の油水界面へのなだれ的融合を調べるための実験系としてAerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍に形成されるエマルションの生成メカニズムと、融合条件を検討してきた。その過程で、エマルションが自発的に形成されるメカニズムが未解明であることがわかったので、この点を詳しく検討した。その結果、帯電した液液界面の安定性に関する一般的基準を明確にすることが出来た。これは、本研究の目的のみならず、界面化学一般に重要な新概念であり、液膜の非線形振動現象など、本特定研究の他の研究分野にも新しい考え方を提案するものである。
【電気化学的不安定性の理論】液液二相界面におけるイオン性界面活性剤など界面活性なイオンの吸着は、二相間の界面電位差Eに強く依存する。吸着の電位依存性に対する熱力学的考察により、そのイオンの標準イオン移動電位を中心としたある特定の電位領域で最大となり、その外側では吸着は起こらないことを示すことができる。それに対応して、吸着が生じる電位領域では界面張力γが低下する。一方、γは界面の両側にできる電気二重層のために界面活性剤の吸着がない場合でも、電気毛管極大を頂点としてEに応じて放物線状(-coshx状)に変化する。これらの二つの寄与が加算的であると考えて界面活性なイオンが存在する場合のγ vs.E曲線(電気毛管曲線)を求めた。
電気毛管曲線は界面活性イオンの標準イオン移動電位付近で凹状になり、γのEについての2次微分はくぼみの底付近を中心として正になる。これは、界面の微分容量が負になることを意味する。電気容量が負になると系は本質的に不安定になりγが大きく正でも、自発的にエマルションが生じる。この不安定性は、γが有意に正の値を持つときでも生じるので、電気乳化とは違った、これまでには知られていない新しい不安定性である。その基準は、(d^2γ/dE^2)_<γ,ρ,μ>>0実際には、不安定になるか否か、つまり電気毛管曲線の曲率が正になるか否かは、界面活性イオンの標準イオン移動電位とその吸着がないときの電気毛管極大電位(ゼロ電荷電位)との相対的な位置にも依存する。
この不安定電位窓の存在を、一連のアルキルスルフォン酸のイオン移動ボルタンメトリーなどにより証明した。不安定性の例を下図に示す。ある特定の電位範囲でのみ界面が不安定になり、再現性良くカオス的な挙動を示す。AOT存在下での自発エマルション生成は、この理論で説明できる。また、液膜の振動現象の根拠を与える。
2)ガラスキャピラリー電極を用いた微視的なだれ型融合の検出
これまでに数百μm程度の巨視的なエマルションのなだれ型融合を報告してきた^<1.2)>。これにくわえて、より小さなエマルションの液液界面への融合過程が存在することを、先端径が10〜100μmガラスキャピラリーの先端に作った液液界面を用いて実験的に示した。この場合も、融合はなだれ型で生じているようである。 -
電位誘起アバランシュ増幅を伴う膜の構築と高感度センシング系の開発
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽的研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、液液界面/エマルション・ベシクルをベースとして、分子補足→電位変化→ベシクルのなだれ的融合・透過→酵素放出→光検出と一つの刺激が堰を切ったようになだれ的に次段の過程を引き起こすアバランシュ型信号増幅のシステムの構築を目指し、そのための基礎研究として以下の実験を行なった。
1.帯電粒子と帯電界面との相互作用の研究
帯電した粒子と分極性油水界面との相互作用をより詳しく調べるために、蛍光ラベルされ負に帯電したラテックス粒子と分極性DCE/W界面との相互作用を全反射蛍光法で調べた。DCE相側が負に帯電しているときは粒子の界面への融合は無視できるほどであるが、DCE相側が正になる電位では、蛍光強度が増加することが認められた。電位ステップ直後の速い蛍光変化は粒子の界面への付着、その後の遅い変化は粒子のDCE相への溶解に対応すると考えられる。
2.アバランシュ融合過程のモニターリング
Aerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍にいくつかの方法でエマルションを形成し、融合条件を検討した。AOTをジクロルエタン(DCE)に溶解し、LiCl水溶液を接触させると、界面のDCE相側が徐々に白濁してくる。これは、W/O型のエマルションが形成されることによる。この状態で、DCE相から水相への正電荷の移動に対応するスパイク電流が観察された。スパイクの面積から見積もった電気量は、個々のエマルション粒子の移動によりものと比べ1000倍程度と大きく、アバランシュ型の移動であることがわかる。エマルション粒子の界面への融合過程を、EB-CCDカメラを装着した顕微鏡および実体顕微鏡で観察すると、電流スパイクに対応して、直径200μm程度の大きな液滴がDCE相からW相に移動することがわかった。 -
電極表面における吸着有機単分子層の相転移挙動と電極反応
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、金属原子が規則正しく配列した電極表面におけるチオール誘導体分子のミクロな構造が、それらの分子の酸化還元特性という巨視的なふるまいにどのように反映されるかを、実験と理論の両面から解明することを目的とし、以下のような成果を得た。
1.吸着した分子と脱着した分子の表面濃度との間に最近接相互作用のみを考慮した格子統計モデルに基づく等温式が成り立つと考え、数値的にボルタモグラムを計算した。チオール自己組織化単分子膜(SAM)のサイクリックボルタモグラム(CV)で観察されるチオール分子の還元的脱離に伴うピークの特徴がよく再現され、ピーク電位のシフトには、脱着した分子の吸着自由エネルギーのアルキル鎖長依存性の寄与が比較的大きいこと、ピーク面積と吸着量の差異は脱着に伴う充電電流で説明できることが示唆された。
2.チオールの末端官能基の解離状態を調べるために末端にカルボキシル基を有するチオールから形成させたSAMのpK_aをキャパシタンス測定により見積もった。HS(CH_2)_2COOHでは、見積もられたpK_aは約8.5で、バルク溶液中の値に比べてアルカリ側に4pHユニット大きい値であった。また、pK_aの値は、メチレン鎖長が長くなるほど大きくなった。
3.溶液中に溶存しているチオールと吸着した分子との交換反応が、2種類のドメインを形成しながら進行することが、還元的脱離CVと走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた測定から明らかとなった。
4.より完全に相分離する二成分SAMの形成させ、電位制御により一方のチオールのみを選択的に置換した。選択的脱離後および選択的置換後の膜構造をSTMで観察した結果、相分離した二成分SAMから一成分を選択的に脱離した後では表面に残っている分子が倒れ込んでいること、置換の前後でドメインサイズは、ほぼ保たれていることが分かった。 -
電位誘起アバランシュ増幅を伴う膜の構築と高感度センシング系の開発
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 萌芽的研究
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、液液界面/エマルション・ベシクルをベースとして、分子補足→電位変化→ベシクルのなだれ的融合・透過→酵素放出→光検出と一つの刺激が堰を切ったようになだれ的に次段の過程を引き起こすアバランシュ型信号増幅のシステムの構築を目指し、そのための基礎研究として以下の実験を行なった。
1.帯電粒子と帯電界面との相互作用の研究
帯電した粒子と分極性油水界面との相互作用をより詳しく調べるために、蛍光ラベルされ負に帯電したラテックス粒子と分極性DCE/W界面との相互作用を全反射蛍光法で調べた。DCE相側が負に帯電しているときは粒子の界面への融合は無視できるほどであるが、DCE相側が正になる電位では、蛍光強度が増加することが認められた。電位ステップ直後の速い蛍光変化は粒子の界面への付着、その後の遅い変化は粒子のDCE相への溶解に対応すると考えられる。
2.アバランシュ融合過程のモニターリング
Aerosol-OT(AOT,dioctyl sodium sulphosuccinate)を用い、分極性界面近傍にいくつかの方法でエマルションを形成し、融合条件を検討した。AOTをジクロルエタン(DCE)に溶解し、LiCl水溶液を接触させると、界面のDCE相側が徐々に白濁してくる。これは、W/O型のエマルションが形成されることによる。この状態で、DCE相から水相への正電荷の移動に対応するスパイク電流が観察された。スパイクの面積から見積もった電気量は、個々のエマルション粒子の移動によりものと比べ1000倍程度と大きく、アバランシュ型の移動であることがわかる。エマルション粒子の界面への融合過程を、EB-CCDカメラを装着した顕微鏡および実体顕微鏡で観察すると、電流スパイクに対応して、直径200μm程度の大きな液滴がDCE相からW相に移動することがわかった。 -
電極表面における吸着有機単分子層の相転移挙動と電極反応
1999年
学術振興機構 科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
本研究では、金属原子が規則正しく配列した電極表面におけるチオール誘導体分子のミクロな構造が、それらの分子の酸化還元特性という巨視的なふるまいにどのように反映されるかを、実験と理論の両面から解明することを目的とし、以下のような成果を得た。
1.吸着した分子と脱着した分子の表面濃度との間に最近接相互作用のみを考慮した格子統計モデルに基づく等温式が成り立つと考え、数値的にボルタモグラムを計算した。チオール自己組織化単分子膜(SAM)のサイクリックボルタモグラム(CV)で観察されるチオール分子の還元的脱離に伴うピークの特徴がよく再現され、ピーク電位のシフトには、脱着した分子の吸着自由エネルギーのアルキル鎖長依存性の寄与が比較的大きいこと、ピーク面積と吸着量の差異は脱着に伴う充電電流で説明できることが示唆された。
2.チオールの末端官能基の解離状態を調べるために末端にカルボキシル基を有するチオールから形成させたSAMのpK_aをキャパシタンス測定により見積もった。HS(CH_2)_2COOHでは、見積もられたpK_aは約8.5で、バルク溶液中の値に比べてアルカリ側に4pHユニット大きい値であった。また、pK_aの値は、メチレン鎖長が長くなるほど大きくなった。
3.溶液中に溶存しているチオールと吸着した分子との交換反応が、2種類のドメインを形成しながら進行することが、還元的脱離CVと走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた測定から明らかとなった。
4.より完全に相分離する二成分SAMの形成させ、電位制御により一方のチオールのみを選択的に置換した。選択的脱離後および選択的置換後の膜構造をSTMで観察した結果、相分離した二成分SAMから一成分を選択的に脱離した後では表面に残っている分子が倒れ込んでいること、置換の前後でドメインサイズは、ほぼ保たれていることが分かった。 -
低放射化マルテンサイト鋼における高濃度ヘリウムによる自己修復機能の発現
1998年 - 2001年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
木村 晃彦, 森下 和功, 長谷川 晃, 高橋 平七郎, 山本 雅博
本研究結果を以下に要約する。
1.ヘリウム効果:1)マルテンサイト鋼は、150℃において600atppmHeのイオン注入では脆化を生じない。注入後の焼鈍(600℃)では、ヘリウムバブルが成長するが、ヘリウムによる粒界脆化は発現しない。2)ヘリウムの存在は、照射硬化の回復を抑制する。
2.ヘリウム脆化抑制機構:マルテンサイト組織がヘリウムをマトリックス内の高密度転位、合金元素および析出物粒子界面に分散捕獲することにより、粒界への偏析を抑制するため。
3.照射硬化回復の抑制機構:ヘリウムが空孔型欠陥集合体の安定性を高め、分解による単空孔の生成を遅らせることにより、転位ループとの合体消滅を抑制するため。
これらの結果を受けて、マルテンサイト鋼の自己修復機能を提案した。
高濃度ヘリウムの存在は、空孔型欠陥集合体を熱的に安定化するため、スエリングの照射温度依存性におけるピーク温度を高温側にシフトさせると予測される。これに伴い、照射硬化および照射軟化の遷移温度も高温側にシフトすると考えられる。照射軟化はマルテンサイト組織の回復によるものであることから、ヘリウムの存在はマルテンサイト組織の回復を抑制することが期待された。本研究では、ヘリウムの昇温脱離挙動を調べた結果、1)転位はヘリウムを有効に捕獲する。2)Cr原子もヘリウムを捕獲する、ことを実証した。これは、マルテンサイト組織中に存在する高密度転位や照射によって形成される格子間型転位ループがヘリウムの有効な捕獲サイトとなり、消滅相手となる空孔型欠陥および自らの熱的安定性を向上させることにより、マルテンサイト組織の回復を抑制する機構を発現するに至っていると解釈することが可能である。
結論:マルテンサイト組織によるヘリウム捕獲と照射による転位ループの形成は、スエリングや照射硬化の発現温度を高温側にシフトさせ、照射脆化の発現温度域を高温度側に拡張させるというネガティブな効果を持つ一方で、自己機能により照射軟化を抑制し、高温強度を高めクリープ強度を高める可能性を持っことが示された。 -
低放射化マルテンサイト鋼における高濃度ヘリウムによる自己修復機能の発現
1998年 - 2001年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
木村 晃彦, 森下 和功, 長谷川 晃, 高橋 平七郎, 山本 雅博
本研究結果を以下に要約する。
1.ヘリウム効果:1)マルテンサイト鋼は、150℃において600atppmHeのイオン注入では脆化を生じない。注入後の焼鈍(600℃)では、ヘリウムバブルが成長するが、ヘリウムによる粒界脆化は発現しない。2)ヘリウムの存在は、照射硬化の回復を抑制する。
2.ヘリウム脆化抑制機構:マルテンサイト組織がヘリウムをマトリックス内の高密度転位、合金元素および析出物粒子界面に分散捕獲することにより、粒界への偏析を抑制するため。
3.照射硬化回復の抑制機構:ヘリウムが空孔型欠陥集合体の安定性を高め、分解による単空孔の生成を遅らせることにより、転位ループとの合体消滅を抑制するため。
これらの結果を受けて、マルテンサイト鋼の自己修復機能を提案した。
高濃度ヘリウムの存在は、空孔型欠陥集合体を熱的に安定化するため、スエリングの照射温度依存性におけるピーク温度を高温側にシフトさせると予測される。これに伴い、照射硬化および照射軟化の遷移温度も高温側にシフトすると考えられる。照射軟化はマルテンサイト組織の回復によるものであることから、ヘリウムの存在はマルテンサイト組織の回復を抑制することが期待された。本研究では、ヘリウムの昇温脱離挙動を調べた結果、1)転位はヘリウムを有効に捕獲する。2)Cr原子もヘリウムを捕獲する、ことを実証した。これは、マルテンサイト組織中に存在する高密度転位や照射によって形成される格子間型転位ループがヘリウムの有効な捕獲サイトとなり、消滅相手となる空孔型欠陥および自らの熱的安定性を向上させることにより、マルテンサイト組織の回復を抑制する機構を発現するに至っていると解釈することが可能である。
結論:マルテンサイト組織によるヘリウム捕獲と照射による転位ループの形成は、スエリングや照射硬化の発現温度を高温側にシフトさせ、照射脆化の発現温度域を高温度側に拡張させるというネガティブな効果を持つ一方で、自己機能により照射軟化を抑制し、高温強度を高めクリープ強度を高める可能性を持っことが示された。 -
液液二相系における界面特異的反応過程の研究
1998年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1.イオンの界面透過過程の研究交流ボルタンメトリー法と交流変調電位規制界面蛍光法を用いて,キサンテン色素イオンの遅い界面透過はイオンの界面への吸着によるものであることを,明らかにした.通常では界面活性があるとは考えられていないイオンでも,イオン移動のダイナミックな特性にはその弱い界面活性が重要であることを示した.2.イオンの界面吸着に関する研究界面活性イオンの吸着は,その標準イオン移動電位近傍で常に最大となることを明らかにした.この結論は,イオンの性質や溶媒の性質,共存物質などによらない一般的なものであるので,液液二相系の性質を考えるときの重要な指針となる.3.界面の安定性に関する研究界面不安定性の新しい規準として,界面張力-電位曲線の曲率が正,という新しい関係を見いだした.また,このことを実験的に証明した.この新しい不安定性の概念は,自発的乳化を説明するのみならず,液液界面における振動現象の動因の解明など,これまでに十分には解明されていない界面現象を説明することが出来るという点で,画期的なものである.4.液液界面における帯電粒子のなだれ型融合に関する研究エマルション粒子の界面への融合条件を詳しく検討した.間欠的に観測される電流スパイクが,大きな(直径約200μm)W/Oエマルション(水滴)の界面への融合に起因するものであること,および,この融合にともなって小さなW/Oエマルション粒子の融合が誘起されること,を明らかにし,後者を「なだれ型」融合と名付けた.5.液液二相系化学反応の研究本研究では,第1に,界面電位差を変えることにより水相に溶かしたジアゾニウムイオンを1,2-ジクロロエタン(DCE)に駆動し,DCE中のカプラーとアゾカップリングさせる反応系を構築し,反応機構をおもにサイクリックボルタンメトリ-(CV)を用いて電気化学的に調べた.DCE中でのアゾカップリングで生成した水素イオンがDCE中のとどまらず,水相側に移行するErCiErがより妥当な反応機構であることが明らかになった.さらに,水相側からDCE相に移行してきたジアゾニウムイオンをDCE相側で還元するタイプのEC反応を構築した.生成した芳香族ラジカルをもちいてスチレンのラジカル重合を界面で行わせることが出来ることを示した.6.有機薄膜液相系における電子移動-イオン移動共役のボルタンメトリーロ液液界面では,電子移動(ET)とイオン移動(IT)が界面電位差を媒介として共役しうる.チオールの自己組織化単分子膜で被覆したAu(111)電極上に有機薄膜を形成し,それを水相と接触させ電極|有機薄膜|水系におけるボルタンメトリーの実験的および理論的研究を行った.このタイプの系における有機薄膜|水界面のET-IT共役を定量的に明らかにした.
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液液二相系における界面特異的反応過程の研究
1998年 - 2000年
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
垣内 隆, 保原 大介, 山本 雅博
1.イオンの界面透過過程の研究交流ボルタンメトリー法と交流変調電位規制界面蛍光法を用いて,キサンテン色素イオンの遅い界面透過はイオンの界面への吸着によるものであることを,明らかにした.通常では界面活性があるとは考えられていないイオンでも,イオン移動のダイナミックな特性にはその弱い界面活性が重要であることを示した.2.イオンの界面吸着に関する研究界面活性イオンの吸着は,その標準イオン移動電位近傍で常に最大となることを明らかにした.この結論は,イオンの性質や溶媒の性質,共存物質などによらない一般的なものであるので,液液二相系の性質を考えるときの重要な指針となる.3.界面の安定性に関する研究界面不安定性の新しい規準として,界面張力-電位曲線の曲率が正,という新しい関係を見いだした.また,このことを実験的に証明した.この新しい不安定性の概念は,自発的乳化を説明するのみならず,液液界面における振動現象の動因の解明など,これまでに十分には解明されていない界面現象を説明することが出来るという点で,画期的なものである.4.液液界面における帯電粒子のなだれ型融合に関する研究エマルション粒子の界面への融合条件を詳しく検討した.間欠的に観測される電流スパイクが,大きな(直径約200μm)W/Oエマルション(水滴)の界面への融合に起因するものであること,および,この融合にともなって小さなW/Oエマルション粒子の融合が誘起されること,を明らかにし,後者を「なだれ型」融合と名付けた.5.液液二相系化学反応の研究本研究では,第1に,界面電位差を変えることにより水相に溶かしたジアゾニウムイオンを1,2-ジクロロエタン(DCE)に駆動し,DCE中のカプラーとアゾカップリングさせる反応系を構築し,反応機構をおもにサイクリックボルタンメトリ-(CV)を用いて電気化学的に調べた.DCE中でのアゾカップリングで生成した水素イオンがDCE中のとどまらず,水相側に移行するErCiErがより妥当な反応機構であることが明らかになった.さらに,水相側からDCE相に移行してきたジアゾニウムイオンをDCE相側で還元するタイプのEC反応を構築した.生成した芳香族ラジカルをもちいてスチレンのラジカル重合を界面で行わせることが出来ることを示した.6.有機薄膜液相系における電子移動-イオン移動共役のボルタンメトリーロ液液界面では,電子移動(ET)とイオン移動(IT)が界面電位差を媒介として共役しうる.チオールの自己組織化単分子膜で被覆したAu(111)電極上に有機薄膜を形成し,それを水相と接触させ電極|有機薄膜|水系におけるボルタンメトリーの実験的および理論的研究を行った.このタイプの系における有機薄膜|水界面のET-IT共役を定量的に明らかにした.