科研費(文科省・学振)獲得実績 - 図師 宣忠
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中世後期フランス・ネーデルラントにおける「魂の統治」と「聖なるものへのアクセス」
2021年4月 - 2025年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
轟木 広太郎, 図師 宣忠, 青谷 秀紀
本研究は、中世後期のフランスとネーデルラントを対象として、救霊にかかわるローマ=カトリック教会の思想・実践を「魂の統治」という観点から、また世俗の統治実践を「聖性」とのかかわりにおいて研究することを通じて、中世後期の政治・宗教史を独自な視点から見直そうというものであるが、研究計画初年度として基礎的な作業を進めることができた。
まず、轟木は13世紀半ばから14世紀初頭のフランス王権の地方監察について、そこに君主自身の魂の救いという問題と王国の救済という問題が絡んでいることを示した論文を発表したほか、告解を扱った説教関連史料(ハイステルバッパのカエサリウス『奇跡の対話』)の分析を進めた。図師は、本研究で「魂の統治」の特殊形態と規定した異端審問について、審問官たちの作成した各種記録類がどのように彼らの実務を支えていたかを明らかにする論文を発表した。青谷は15世紀のネーデルラントにおける都市の騒擾を諸侯統治や都市共同体統治と関連づける論文を発表した。
また、今年度は2度の研究会を遠隔開催で実施した。まず12月の第1回研究会では、今年度のそれぞれの研究の進捗状況について報告するとともに、それを踏まえた今後の計画について議論した。続く3月の第2回研究会では、第1回の話し合いを踏まえ、中世後期のヨーロッパ全体を対象とする比較政治史の近著(John Watts, The Making of Polites: Europe, 1300-1500, 2014)について、轟木が書評報告(ただし、著作の前半のみ)を行った。 -
中近世アルプス地域の空間的・社会的モビリティー:境域の政治・宗教・社会の動的展開
2020年4月 - 2023年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
佐藤 公美, 服部 良久, 踊 共二, 田中 俊之, 皆川 卓, 上田 耕造, 渡邉 裕一, 斉藤 恵太, 有田 豊, 田島 篤史, 図師 宣忠, 頼 順子, 猪刈 由紀
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中世後期ヨーロッパ世界と贖罪・規律・権力
2017年4月 - 2022年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
青谷 秀紀, 轟木 広太郎, 図師 宣忠
本研究は、フランス王国とその周辺を中心として、中世後期における宗教と権力の関係を、教会とこれに範をとった俗人による罪と贖罪をめぐる様々な実践の分析から明らかにした。具体的には、異端審問や教会裁判、宗教儀礼に焦点を当てることで、世俗化が進展したとされる13世紀以降のヨーロッパにおいても、信徒の魂が、教会の聖職者によってだけでなく、王権や都市政府によっても直接間接さまざまな形で統御されていた実態を浮き彫りにした。
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前近代ユーラシア西部における貨幣と流通のシステムの構造と展開
2016年4月 - 2020年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
鶴島 博和, 櫻木 晋一, 亀谷 学, 菊池 雄太, 城戸 照子, 西村 道也, 新井 由紀夫, 徳橋 曜, 安木 新一郎, 図師 宣忠, 阿部 俊大, 西岡 健司, 名城 邦夫, 山田 雅彦, 向井 伸哉
本研究は前近代における西ユーラシアを時空間の対象として,貨幣の製造と流通のシステムの構造と展開を解明することを基本的な研究課題とした.「権力」を支え「富」の主要な形態であると同時に価値尺度であった「地域世界」の血液ともいうべき貨幣が,(1)何を素材として,(2)どのように製造され,(3) 受容され,(4) 流通しそして(5)その生涯を終えて次に継承されたのかという「貨幣の生涯」をブリテン、バルト海域、地中海域というヨーロッパ世界の周辺部における貨幣の製造と流通のシステムに光を当てることができた。ヨーロッパの中核ともいうべきフランク世界とそれとの関連の解明が課題として残った。
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中世南フランス都市における処罰する権力の展開と文書利用
2016年4月 - 2019年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
図師 宣忠
本研究は、中世南フランス都市における権力による文書利用のあり方を対象とするものである。13世紀以降、文書の利用が拡大していくにつれて、記録の保存が王権や異端審問、都市権力の主要な関心事となっていく。記録はその文面を参照され、その内容に応じて精査される対象となったのである。
本研究では、まず都市トゥールーズとフランス王権との関係が文書に記された証拠に基づいた交渉を通じて構築されていったこと、また異端審問官が異端者の情報を引き出すために記録の作成・保存・利用を行っていたことを明らかにした。 -
紛争解決制度化の比較史-前近代における「裁判」と「裁判外」-
2011年4月 - 2014年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
北野 かほる, 鶴島 博和, 田口 正樹, 西村 安博, 岩元 修一, 皆川 卓, 佐藤 猛, 図師 宣忠
前近代においては、紛争解決における「裁判」と「裁判外」の関係は近代におけるほど截然と分かれておらず、さらに、とりわけ社会上層部・政治中央部においては、紛争解決状況の法的側面と政治的側面が一見分離しがたい外観を呈することがある。
とりわけ社会中層部・下層部においては、類型が「裁判」であれ「裁判外」であれ、紛争の解決さらには回避のために多岐的な方策が模索されるが、これは、裁判を担う政治権力に、判決効を保障するだけの実力が伴っていない場合に顕著になる、 -
中・近世ヨーロッパにおけるコミュニケーションと紛争・秩序
2009年4月 - 2014年3月
学術振興機構 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
服部 良久, 青谷 秀紀, 朝治 啓三, 小林 功, 小山 啓子, 櫻井 康人, 渋谷 聡, 図師 宣忠, 高田 京比子, 田中 俊之, 轟木 広太郎, 中村 敦子, 中堀 博司, 西岡 健司, 根津 由喜夫, 藤井 真生, 皆川 卓, 山田 雅彦, 山辺 規子, 渡邊 伸, 高田 良太
23人の研究分担者が国内外の研究協力者と共に、中・近世ヨーロッパのほぼ全域にわたり、帝国、王国、領邦、都市と都市国家、地方(農村)共同体、教会組織における、紛争と紛争解決を重要な局面とするコミュニケーションのプロセスを、そうした領域・組織・政治体の統合・秩序と不可分の、あるいは相互関係にある事象として比較しつつ明らかにした。ここで扱ったコミュニケーションとは、紛争当事者の和解交渉から、君主宮廷や都市空間における儀礼的、象徴的な行為による合意形成やアイデンティティ形成など、様々なメディアを用いたインタラクティヴな行為を包括している。